映画感想: 『パピヨン』 暴力と権力への否定

パピヨン』(2017)
監督:マイケル・ノアー 主演:チャーリー・ハナムラミ・マレック

 一番好きな映画は何かと問われたら、今の私は迷いなくこの作品を挙げるはずだ。ストーリー自体は極めてシンプルで、殺人の冤罪で過酷な刑務所へ投獄された主人公・パピヨンが脱獄を目指すというもの。しかし初めてこの映画を鑑賞し終わって劇場が明るくなったとき、私は確かに何かが私を貫いたのを感じた。それは経験したことの無い感覚だった。頭が冴えたような、目の前が澄んでいるような、もっと言えば世界が変わったかのような、そんな感覚だった。そうした少しの困惑のあと、ああこれが啓蒙されたということか、と落ち着いた。
 この映画は「脱獄する」という目的から逸れないまま、暴力性や権力への否定、そして無垢なる自然な存在への憧憬を緻密に描く。それは道を阻まれるなかで自由を得るために変容していくパピヨンを通して具体化される。
 非暴力と博愛を備えて境地に達したパピヨンが、とうとう自由を掴んだそのときのその様の、なんと美しいことか。
 パピヨンを演じるチャーリー・ハナムが宿す内省的な、そして中性的な性質が生きた映画だと思う。また主要キャストの演技が素晴らしいことは言うまでもないが、この作品は端役の人まで演技が細かく隙が無い。できるだけ長く劇場で公開されていてほしいと思う一方、早くディスクを手に入れたいという気持ちもある。